近年の就職活動では、志望理由の体裁は整っていても、本人の価値観や就活軸と企業の実際の事業・業務を結びつけるプロセスが不十分のまま選考に進むケースが目立ちます。
複数内定を取得後に「どの会社で働きたいか」検討を本格化させる学生も多く、この意思決定の後ろ倒しが、内定辞退連絡の遅延にもつながっていると推測されます。
こうした背景の一つに、就活におけるAI活用の拡大が挙げられます。今回はAI普及による学生の行動変化を整理し、採用側がどう対応すべきかを考えます。
● AI任せの企業研究などによる「就活軸の消失」という弊害
生成AIの進化により、業界研究・ES作成・面接対策に要する時間は大幅に短縮されました。短時間で手軽に応募先を拡大できる一方、自分の価値観・就活軸と業界・企業のマッチングについて熟考する初期プロセスが抜け落ちる、あるいは後回しになる学生が増えています。
・AIで各社に合わせたESを数分で作成
・AIでOpenWork等の口コミサイトを解析し、企業研究を完結
・そのデータをもとに、AIがオーダーメイドの面接回答例を作成して面接対策まで完結
といったケースも珍しくありません。
AIを活用した大学のレポート作成が日常化している今、「AI就活」はむしろ自然な流れと言えるでしょう。
このような行動変化に伴い、「内定を取るための戦略」は緻密でも、「なぜその企業/職種を選ぶのか」といった、より本質的な検討が欠如したままの「就活軸なき就活」が広がっている印象です。
● 「企業や仕事への深い理解を形成する・測る」設計が重要に
見栄えの良いESや志望動機がAIによって容易に作成される今、採用側には生身の学生による企業・仕事に対する理解の深さや一貫性を見極める仕組みが求められます。
例えば
・ES・各面接での主張の一貫性と理解の深さ
・志望理由を本人の言葉で説明できているか
・その内容と就活軸との整合性
などを確認することで「理解の深さ」を測ることができます。
また、AI頼みの二次情報で企業研究をすることに慣れた学生にとって、企業説明会やOB・OG訪問は「情報収集の機会」ではなく「義務的参加の場」と受け取られがちです。「OB・OG訪問で何を聞くべきかわからない」という声も聞かれます。
対策として、学生の就活軸形成に寄与する新しい観点の提供、例えば現場社員のリアルな仕事観や、職業選択の基準に役立つエピソード共有などが重要になると思われます。
● 複数内定獲得後のタイミングで、再度「就活軸の設定」を支援することが有効
AI利用によるタイパ就活が広がり、就活軸の形成や志望動機の言語化が不完全なまま複数内定を取得、そのタイミングで各社の比較・重みづけをする学生が増加しています。
この場合、意思決定が内定後に先送りされるため、例えば以下のような採用側による内定前後のコミュニケーション設計が有効です。
・内定前後に「就活軸の再設定」を支援する
・複数の内定先を比較し、入社先を決める判断軸となる情報を提供する
・本音ベースでのキャリア対話を設ける
学生が「どの企業を選ぶか」を考える過程に伴走することで、内定辞退や入社後ミスマッチの抑止に繋げるという考え方です。
内定前後のタイミングで企業理解を深める施策を集中的に実施し、判断基準となる比較情報を提供して内定承諾を後押しすることは、遅い時期の内定辞退の抑止のためにも効果的と思われます。
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