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【1月の採用市場ウォッチポイント】


【緊急提言】3.11事例で振り返る「災害時の採用対応」とは

株式会社ピボット 代表取締役/ブランドコンサルタント ⻄山亜矢子


 

24年元日、痛ましい能登半島地震が発生しました。
今回は特殊な地形的状況が支援を困難なものにしていますが、地震国日本に暮らす以上、誰もが被りうる災害です。


現在ほとんどの企業ではBCP(事業継続計画)の形で災害時の社員対応、顧客対応を定めているかと思います。しかし、採用活動上の学生対応について、明確に定めている企業はどれくらいあるでしょうか。
(例:インターンシップや面接中の学生保護、被災学生への選考配慮など)

 

2011年3月11日の東北大震災では、多くの企業が過去に直面したことのない学生対応を求められました。

 

今回は3月11日の地震発生以降、弊社がSR会員企業様と交わしたやりとりから一部をご紹介します。
「採用活動における災害対応」について、今回および今後の対応力強化のご参考となれば幸いです。

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(1)3.11発生当時の新卒採用事情


当時(2012卒)、4/1が倫理憲章上の選考活動の解禁日でした。主要各社は4月下旬までに事実上の内定出しを行うスケジュールで動いていました。
3/11は本選考直前の時期で、ES締切を控え、リクルーター選考や最終盤の採用イベント(大学別合同説明会や個社の企業説明会など)が行われていました。
基本的に、施策は全て対面実施です。

 

 

(2)発生当日に東京で起こったこと

地震発生時、都心部の揺れは「震度5」でした。首都圏においてもコスモ石油・千葉製油所(当時)の爆発があり、通信も不安定な中で被害の全容を把握しづらい状況でした。交通網が途絶し、首都圏で515万人ともいわれる「帰宅難民」の一人となった方もおられると思います。

地震発生の15時前という時間帯には、多数の学生がリクルーター面接や採用イベントなどに参加していました。
東京での採用活動に参加していたのは首都圏学生が中心で、徒歩で帰宅できる場合もありました。もし選考プロセスが進み、遠方の受験者を呼び寄せるタイミングだったならば、対応はさらに困難だったと思われます

 


(3)発生後に起こったこと

3/11は金曜でしたが、3/14以降、意志決定の早い企業から順次対応方針を発表。
主な対応は、ES締切の延期、選考開始の延期です(多くは4月開始→5月もしくは6月開始に変更)。
選考の公平性に鑑み、変更(対象)は「全国一律」としたものが66%、次いで「東北エリア/被災学生を対象」としたものが16%でした。

 


(4)SR編集部の対応と企業の意思決定

発生当日~翌週明けは、SR編集部に「対応に関する相談」「他社の対応状況の問合せ」が相次ぎました。

原発事故の状況が見通せないこと/東京もかなりの揺れが出たこと等、本社(での採用活動)の安全性が担保しきれず、判断が難しくなっていました。
また、多くの企業に明確なレギュレーションが無く、他社の対応状況が判断の指針として強く求められました。

そのため急遽、情報の収集対象を本選考情報から選考延期情報に切替え、臨時増刊号を配信(3/14・3/15・3/18)。並行して、ファクトに基づく選考延期の意志決定の相談を積極的に受け付けました。
おおよその企業(コース単位で見れば83%)は、3月末までに対応を固めました。

 


(5)もし首都圏直下地震なら

被災人数がとてつもなく多いため、自社および採用チームにも被害が生じ、かつ「初動数日は外部の支援がない」前提で考えることになります。

特に意識して備えておくべきは、自社(もしくは指定会場)に学生を一度に集めるインターンと本選考時の対応でしょう。
自身も被災者である中で学生を預かることになりますが、場所的にはオフィスで被災する確率が高いため、社員に準じた扱いを適用するのだと思います。

 

 


(6)リスク分散・リスク低減のアイディア

・社員に準じて扱うと考えると、必要に応じて自社の「災害時対応マニュアル・設定」を学生向けに公開しておくというのは、手軽にできる取組みの一つです。

・「こんな時はこうする」「こうした条件下ではこう判断する」といった個別のシチュエーションに対応したマニュアルを採用現場で作成しておくことも考えられます。
3.11に何らかのものが作られた可能性がありますので、それをサルベージしておく、読み返しておくことから始めてもよいでしょう。

・主要な対面施策についてオンライン化の切替え案を持っておく/切替えフローを決めておくこともお勧めします。
現在の採用活動は対面回帰傾向ではありますが、オンラインでの採用スキル・要領を失わないことが重要です。

・3.11当日、東京海上日動は都内研修施設(宿泊可能)をイベント会場としていたため、帰宅困難となった参加者をそこに宿泊させました。
また企業ではありませんが一橋大学では、竹橋にある大学施設を近辺の学生向けに開放しました。
遠方からの呼び寄せ/宿泊を前提としている施策であれば、研修施設の活用により所在確認や一時受入れが平易になるかもしれません。

・応募者連絡手段の確保/名簿へのアクセスについては、採用管理システム会社の対応規定に目を通しておくと慌てずに済みます。

・基本設定として「選考時期/入社時期を分散させる」ことは、不測の事態に際しても新卒採用をゼロにしないという観点からは有効かと思います。


災害の記憶は、時間とともに薄れます。
しかし、都度事態に学ぶことによって、その被害は減らしていくことができます。
記事が少しでも安全な採用/持続的な採用のお役に立てれば幸いです。

 


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