Z世代と退職代行、サイレント辞退の背景にあるもの
新保博文(株式会社ピボット シニアコンサルタント/株式会社 Work with Joy CEO)
新人の入社や配属異動が重なるこの時期、SNS上では"退職代行"というワードがトレンド入りする光景が見られます。新卒採用の世界では、「内定辞退代行」という新たなサービスも登場し、面接を無断でキャンセルする「サイレント辞退」も話題になっています。これらの現象は決して一過性とも言えず、Z世代を中心とした若い世代の価値観や行動様式の変化が背景にあります。
本記事では、Z世代の特性と環境の変化を踏まえながら、退職代行やサイレント辞退といった行動の背景を探ります。人事や採用担当者としての具体的な対策や各社の工夫については、次回の記事で詳しくご紹介いたします。
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▼対立を極力避けたいZ世代
Z世代は、対立やネガティブな感情のぶつかり合いを避ける傾向が強いと指摘されています。米国のリーダーシップ論の第一人者であるサイモン・シネック氏は、「Z世代は対立を極力避けようとし、避けようとするあまり、半年付き合った人に直接別れをつけずに、メッセージを無視したり、ブロックしたりする。上司に昇給をリクエストするより仕事を辞めることを選ぶ」と述べています。
日本においても、金沢大学の金間教授が著書の中で「退職を直接伝えるのはストレスが大きいが、第三者を挟むことで心理的負担が軽くなる」と指摘しています。
筆者自身も、企業で1on1面談を多数実施してきた中で、Z世代の若手がどこか“テンプレ的”な発言を繰り返し、本音を出せずにいる場面を何度も見てきました。上司が期待していると感じる方向に合わせようとする、その慎重さや回避性を持っています。面接のキャンセル、選考や内定辞退といったシーンで、なかなか言えないにつながっていると思います、
このような行動の背景には、幼少期からSNSやオンラインゲームなどを通じて“直接の対話をしない方法”が定着したこともあるでしょう。直接的なコミュニケーションよりも、テキストベースで距離を保てる関係性に慣れています。少し前には、「会社を休む時にLINEで済ませるZ世代の非常識」という議論もありました。大きな波紋を呼びましたが、ビジネスチャットの伸展とともに企業内の常識も変化しつつあります。
退職代行やサイレント辞退では、大事なことを「無断」「自分で言わない」点でマナーとしてはさらに一線を超えています。その背景を深堀りしていきます。
*編集部より*
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▼内定辞退代行も登場、背景にある心理は?
最近では「内定辞退代行」という新サービスも登場しています。学生にとってはまだ認知度が低く、「料金(2万円程度)を払うくらいなら自分で直接断る」といった声も多いようです。退職代行のように普及するのかは不明ですが、重要な点は「代行を考えるほど断りづらいと感じる学生心理」を理解し対処することです。
辞退代行を生む背景に「Z世代の対立回避特性」があるのは間違いないでしょう。その上で直接的には「就職活動の早期化・長期化」が大きく影響しています。「早くから複数の内定を持ち」「長期間就職活動を続ける」ことで、心理的ハードルが増してしまう悪循環の構造です。実際に多く目にするのは、以下のようなパターンです。
(1)早期内定後に企業からの連絡が少なすぎて、関係性が薄れ「今さら連絡しにくい」状態になってしまう
(2)人事担当の人柄が良くフォローが丁寧であるがゆえに「辞退するのが申し訳ない」と感じてしまい、結果的に辞退タイミングを逃してしまう
状況は真逆なのですが、対立やネガティブな対話を避けたいという心理が結果的に「辞退の後ろ倒し」につながっているのです。辞退が後ろ倒しになるほど採用計画に影響が出ますし、担当者の心理的ダメージも大きくなってきます。内定後の学生との距離感が離れすぎても、近すぎても良くないという、難しい舵取りが必要な状況です。
▼増加する面接ドタキャン、サイレント辞退の実態
「Zoomで面接を待っていたのに、相手が現れない」「会社説明会の直前で無断キャンセルされた」といったことをご経験された方も多いのではないでしょうか?
飲食店などでも課題となっている“ドタキャン”ですが、採用活動でも深刻な問題となっています。学生にヒアリングすると、「自分はそんなことしないが、当日ブッチする友人もいる」といった声が複数あり、少数派ながら一定の割合存在している層です。
背景には、オンライン化で説明会や面接の参加ハードルが下がり「とりあえず申し込む」行動が増えたことが影響しています。また、スカウトなど企業側の積極的なアプローチに対し「声をかけてもらったから話を聞く」程度の関心で面接に臨む学生も増えています。受験モチベーションの希薄さも無断キャンセルの要因になっていると考えられます。
学生ヒアリングによると「オンラインなので直前まで参加するか否か悩める」ことも大きいようです。対面であれば、移動等の準備が必要なので、前広に行動します。そのため、キャンセルも早めに連絡していました。いまは、「どうしようどうしよう」と考えているうちに時間がきてしまい「今更連絡しても。。。」となり、無断キャンセルにつながってしまうようです。一回経験すると癖になり、そういう傾向がある学生は複数回行っているという実態もあるようです。
▼今後に向けて
Z世代の行動を「非常識」と一蹴するのではなく、なぜそのような行動が生まれるのかを理解することで、採用する側も打ち手を打つことができます。
次回は、これらの課題に対し、企業が実際に行っている工夫や、Z世代とより良い関係性を築くための具体的な施策をご紹介します。
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